2007年02月09日

《お話》小さなともだち

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ジャングルジム。すべり台。シーソー。ぶらんこ。砂場。

少し耳が痛い、蝉が高い音を鳴らすから。大きな木に寄り掛かりながら、キャーッと声をあげる女の子達を見てた。ハンカチで何度も、顔を拭った。お気に入りのTシャツは、サーモンピンクからお母さんがお気に入りのショッキングピンクに、あっという間に変わった。時々、わざと目の前まできて走り出す、そんな男の子達を黙って見てた。いちょうの葉っぱが落ちても、ずっと私はそうしてた。

ずっと。

夕暮れになるまで。

雪の日。いつものように、ピンクのぽんぽんがついた手袋を、ウサギの人形にして木に寄り掛かって遊んでいたら、あの子が来たんだ。

「ここ、寒いよ」

たくさんの本を両手で抱えて。私は黙ってついていった。彼も黙って歩いていった。着いたのは、町の一番大きな図書館。彼はたくさんの本を返すと、また黙って歩いていった。私も後ろを歩いていった。長い机の前に来た時、彼が私の分も椅子をひいてくれた。二人で、大きな椅子にちょこんと座った。図書館の中は暖かくて、ジンジンしてる真っ赤な頬と耳を、余計に熱くさせた。クシュッと、小さなくしゃみを彼がした時、ウサギの人形が声を掛けた。

「…ねぇ、なん年?」

「…いち。」

それからイチと私は、毎日一緒にいた。たくさん話さなくても、何も同じものなかったけど、毎日一緒にいた。彼はいつもたくさんの教科書とシャーペン、私は鏡とクシとお菓子。山積みになった本の隙間から、丸ガムを転がして渡す。うまくいったら、明日のテストは百点。だから、何回もやった。イチは、ガムが汚れるのを気にしてたけど、私は成功するまでやめなかった。

イチに学年で、一番になって欲しかったから。

木に寄り掛からなくなってから、次の次の夕暮れの冬、私は町を出た。大きなカーブを曲がった先に、あの図書館がある。雪でいつも以上に、お父さんがゆっくりとハンドルを曲げた時、図書館の前にイチが立っているのが見えた。こちらに駆け寄ることもせず、ただ、ギュッと唇を噛みしめて、いつもよりたくさんの本を抱えて、イチはそこにいた。私は、窓を開けることもできずに、イチがありんこみたいになるまで、ずうっと見ていた。

「イチ、そこ、寒いよ」


おしまい。
posted by hiyoko at 00:00| Comment(0) | NOVELS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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